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「宇宙を動かす力は何か 日常から観る物理の話」松浦壮

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松浦壮「宇宙を動かす力は何か 日常から観る物理の話」

 

宇宙を動かす力は何か 日常から観る物理の話 (新潮新書)

宇宙を動かす力は何か 日常から観る物理の話 (新潮新書)

 

 本を読むと、その本に出会う前とは世界が少し変わってみえるときがある。そういう本を、ちょこちょこ紹介していこうと思う。

著者は素粒子物理学者で、大学で文系の生徒に物理を教えているそう。

この本の目的は、「複雑にみえるこの世界には理が満ちていて、理をみつけることはそれ自体が楽しいのだと感じてもらうこと」。それをごくごく日常の例をつかって、一緒に考え、感じることができる。この「一緒に考える」という部分が、著者は抜群にうまくてこの本の一番の魅力になっている。そしてその結論が面白い。

 

例えば、現代人では当たり前となっている「地動説」。なぜこれが正しいのか説明できるだろうか?私はそれまでは漠然と、宗教的な価値観で縛られていた頭の固い人たちが地球が特別な地位であることに固執して、客観的な事実を受け入れられなかったんだよね、くらいにしか思っていなかった。

しかし一旦天動説では説明できなくて、地動説を考えないと説明できないことを考えてみると、意外と自分がよくわかっていないことに気がつく。

多くの現在人は、「我々は巨人の肩にのっていて、過去の人たちより多くの知識がある」と思い込んでいるかもしれないが、実はただ単に時代が違って違う信念を持っているだけ、という方が真実かもしれない。

そういう素朴に常識だと思っていることをひとつひとつ見直していき、信念を理解に変えていく作業というものは、純粋に楽しい。かつて学校で無味乾燥に暗記したり問題を解いていた事柄を、感覚で理解して現実世界と結びつける作業ともいえる。

その他、知っていたけど本書を読んで腑に落ちたことは、

 

  • 光の速さが、止まっている人からみても、動いているものからみても同じってどういうこと?(時速100km/時の車から投げた時速150km/時のボールは車からみると150km/時だが、止まっている人から見たら100+150km/時なのに?)
  • 大気で生み出されるミュー粒子の寿命は100万分の2秒なのに、なぜ地上で観測できるのか?(光の速さ30万km/秒×100万分の2秒=600m)
  • 地球をまわる宇宙船内はなぜ無重力なのか?
  • 地球の重力が慣性力と同じ「見せかけの力」とはどういうこと?

のようなことがある。気になる話があれば読んでみることをおすすめする。

ちなみに、本書を読み通し、一般相対性理論を学んだあとには天動説と地動説、実はどちらも正しいというきれいな伏線回収もあり、驚くことになる。

終わりに

子どもができてから、かつて自分が感動したあれこれを、子どもとも一緒に楽しく話せたらいいなと思ったりしている。一方で、社会人になると多くのことが「信念」化して、小さい頃に感じたみずみずしい感覚を忘れがちになっている。本書はその当時の気持ちを思い出させてくれた。

 

同著者は他にも、ブルーバックスから時間とは何かを考える本を出していて、こちらもすごく面白かった。「宇宙を動かす力は何か」は広い読者に、物理を例にして物理の考え方を楽しく知ってもらうことにフォーカスしているのに対して、こちらは物理の中身に重点をおいている。時間を日常的な感覚から考えていたら、知らぬ間に電磁気学や宇宙、相対性理論のとんでもない世界に踏み入れている恐ろしい本。